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​代表 保科眞智子が東京芸大の学術論文ジャーナルに論文を寄稿

ROIP代表の保科眞智子が、東京芸大の学術論文誌「東京藝術大学大学院 国際芸術創造研究科GAジャーナル Vol.5 2024」に、ロースドルフ城古伊万里再生プロジェクト(ROIP)の5年に渡る活動実践をまとめた論文を寄稿しました。

アートプロジェクトの専門家ではない、ごく普通の「主婦」であった女性たちが、どのように協働し、ROIPというアートプロジェクトを成功させるに至ったのか。保科は、この論文でその課程を振り返って記述すると共に、活動を通してメンバーや関係者に与えた影響や社会的意義についても考察しています。

 

全文はこちらからダウンロードできます。

序文を下記に掲載します。


出典「東京藝術大学大学院 国際芸術創造研究科GAジャーナル Vol.5 2024」

戦争により破壊された墺歴史的遺構をめぐる
日本人女性たちの文化実践 
――ロースドルフ城古伊万里再生プロジェクト(ROIP)を事例に――


保科 眞智子
東京藝術大学大学院 国際芸術創㐀研究科
アートプロデュース専攻 研究生

1. はじめに 


 「オーストリア・ロースドルフ城古伊万里再生プロジェクト(Reviving 
Old Imari Project, 以下 ROIP, 2018-2022)」とは、第二次大戦によって破壊されたままウィーン近郊の古城に眠っていた陶片群「ピアッティ・コレク
ション」を、日本人女性らの市民グループが中心となり再生させたプロジ
ェクトである。コレクションの主体は江戸期の輸出磁器「古伊万里」だが、
無残に砕かれた陶片の数はおよそ 1 万ピースにものぼっていた。ROIP は、
古陶片群を「平和の象徴」と位置づける城主一家の思いに共感し、コレク
ションの国際的認知のためのネットワークを構築した。活動は日墺友好 150
周年記念事業に認定され、展覧会の特別協力をはじめ、分野を超えた連携
により両国を結ぶ様々な文化活動を展開し、現在も発展し続けている。


ROIP は、日本の専門家による初めての学術調査を支援した。その結果、
陶片群には 17 世紀後半〜18 世紀後半の古伊万里をはじめとする貴重な作
品が含まれることが判明した。また、コレクション全体が、東西の陶磁貿
易史を俯瞰する構成となっていることも示された。学術的な裏付けを得た
ことで、ROIP は日本での特別展企画に漕ぎ着いた。陶片群の一部が 300
年ぶりに帰国すると、各種メディアで話題となる。調査、修復の後、世界
初の展覧会が全国 4 カ所の美術館にて盛会となった。

 

 特別展「海を渡った古伊万里〜ウィーン、ロースドルフ城の悲劇〜」(2020
〜2022)は、会期中に新型コロナウィルスによる未曾有のパンデミックが
災いしたが、東京、愛知、山口、佐賀の美術館を巡回し、述べ 4 万人を動
員する成功を収めた。ROIP は本展に特別協力し、会期中は関連する文化イ
ベントなどで広報活動を支援した。なかでも、古伊万里のふるさとである
佐賀県立九州陶磁文化館にて主催したシンポジウムは、活動の集大成に位
置づけられる。地元学生とオーストリア人城主との交流は、両者の友情を
育み、地域文化の未来を担う若者たちの貴重な学びの機会となった。


ROIP の取り組みは、置き去りにされていた歴史的遺構の学際的な活用事
例として、国際放送を含めたメディア 50 社以上に報道された。奇しくも巡
回展の会期中に、ロシアによるウクライナへの軍事侵攻(2022)が勃発し
た。世界が再び破壊行為を目の当たりにすることで、活動の意義はより一
層深まった。日本での展覧会を終えて墺へ返却された陶片群は、本国でも
注目を集めるようになる。国立ウィーン応用美術大学は、墺政府の支援に
よる大型アートプロジェクトを始動し、ROIP との共同が進んでいる。ロー
スドルフ城「陶片の間」を訪ねる人は増加し、日墺の観光や文化的な交流
に期待をして、大阪・関西万博(2025)への参画も検討されている。


ROIP プロジェクトの中核メンバーは、発起人である筆者を含めて、40
代〜50 代の日本人女性たちだ。彼女たちの多くは、日本社会における伝統
的な「主婦」という属性に身を置き、ROIP との関わりを通じて、価値観や
生き方が大きく変化した。本稿では、ピアッティ・コレクションが引き寄
せた墺一家と、ROIP メンバーである日本人の一般女性らとの協働に着目し、
陶片群の再生プロジェクトについて報告する。その上で、ROIP プロジェク
トがメンバーや関係者に与えた影響と社会的意義について、エスノグラフ
ィの手法を用いて考察する。
 

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